A:鰐顔の精霊 グランガチ
アラガン・トームストーンには、神話を扱ったものがありまして、一時期、大枚を叩いて大量に集めていたことがあるのです。その中に南方大陸の神話についての記述がありましてね。
なんでも、現地住人たちは「グランガチ」という名の、ワニに似た精霊について語り継いでいたというんです。後ろ足で立って歩くのだとか…もちろん、ワニの危険性を語り継ぐために、現地住人たちの間で神話が作られた可能性はあります。ですが思うんですよ、古代に似た存在がいたんじゃないかってね。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
家に帰ったあたしは書庫とは名ばかりで殆どがらくた置場の倉庫として使っていた部屋に籠って積み上げてあった古本や伝承なんかが記されたアラガン・トームストーンのコレクションを片っ端からひっくり返していた。30分ほど経つと派手に荒ぶるあたしを見かねて相方が声を掛けてきた。
「どうしたん?」
あたしは四つん這いの姿勢で顔だけ相方に向けて答えた。
「ちょっと探し物でね…」
あたしの余りの荒ぶり方に困惑した顔で相方が言った。
「‥‥物を探してるようには見えないんだけど」
「あったー!」
あたしは床にペタンと座り込んで伝承の書かれたアラガン・トームストーンを取り上げて声を上げた。書いてある字が読めないくらい積もった埃を払いながら、あたしは相方の傍に歩いて行った。
「実はさ、エルピスでワニ男君見つけたじゃない?」
あたしは唐突に相方に言った。
「ああ、ワニの顔したでっかいリザードマンみたいなやつ?」
「そうそう。あのワニ男君の伝承だったか何かを見た事があったな~って思ってね」
そういって辛うじて字が読める程度に埃が払われたアラガン・トームストーンに目を落とした。そこには今は絶えた南方大陸のある部族に伝わるグランガチという鰐顔邪龍の伝承が書かれていた。
あたしは椅子に腰かけると、同じく目の前の椅子に座った相方に伝承を読んで聞かせた。
『その民族はラザハンの北にあるジャングル地帯に住んでいた民族だった。その民族の村の傍には大きな湖がありそこには鰐の顔をしていて、後足で二足歩行をする化け物が住んでいた。その鰐の化け物は、昔は人とうまく共存していたと言われているが、いつの頃からか、何故か湖に近づくと襲い掛かってくるようになった。そのせいで村人は湖での漁や養殖が出来なくなり、仕方なくジャングルで木の実を採たり、小動物などを狩って生活していた。
時が経つに従い、村人たちは上手く共存していたことも昔の出来事として忘れ去られ、その見た目の醜悪さから村の住人からも邪悪な存在だと言われるようになった。
そしてさらに時間を重ねることで湖を占拠している鰐顔邪龍の噂はラザハンの都にまでも及ぶようになり、ある時、ラザハンの都で鰐顔邪龍の噂を聞きつけた勇者が村人の安全の為、この邪竜を打ち負かさんと鼻息荒く村へとやってきた。
勇者は湖に向かい、村の人達に湖を解放するよう鰐顔邪龍に呼びかけた。鰐顔邪龍呼びかけに応じて姿を現わし、湖は解放できないと答えた。押し問答はしばらく続いたが、どうしても一歩も譲らない両者は戦いになった。
この激しい戦闘は一晩続き、勇者はようやくの事で鰐顔邪龍を倒すことが出来た。鰐顔邪龍を倒した勇者は村に帰る前に安全になったはずの湖畔を確認のために見回りしてから帰ることにした。そして鰐顔邪龍の巣穴を発見し中を調べたところ、巣穴だと思ったこの大きな穴の中には1mを軽く超えるような巨大蛭の死体が山積みになっていた。それを見た勇者は何かに気付き大慌てで村へと駆け戻った。
しかし、時は遅かった。邪魔する者が居なくなり湖から這い上がった無数の巨大蛭が今まさに村に襲いかかっていた。勇者は必死になって村人を守って戦ったが、結局は村の人口の半分の人が犠牲となってしまった。その夜、勇者は生き残った村人を集め彼らに真実を語った。
鰐顔邪龍は何らかの理由で湖に大量発生してしまった巨大蛭を独りで駆除し続けることでこの村を守ってきたのだと。村人を湖に近づけなかったのも、湖に潜む巨大蛭から村人を護るためであったことを。その見た目で邪龍と忌み嫌われた鰐顔邪龍だったが、実は彼こそが村の守り神であったのだと村人に説明をした。そして、誤ってその村の守り神を殺めてしまい、結果として多くの被害者を出してしまった自分はその責任を負わねばならない。そう村人に語ると勇者はジャングルを治める神の元に向かい、自らの身を捧げ邪龍と同じ鰐顔の精霊となり、村の守り神となった。それ以降、村人たちはその鰐顔の守り神を「グランガチ」と名付け、厚く奉ったという。』
黙って最後まで聞いていた相方は、話が終わると笑みを浮かべて言った。
「倒しちゃったし、あたし達もワニ子になる?」
あたしは赤いリボンをつけてスカートを履いたグランガチを思い浮かべて少し笑った。